駆け出し弁護士の奮闘記――その5“タイムカードの提出義務”
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1.働き方改革が叫ばれている現在、労働時間の管理というのが労使ともに重要な事項となっています。
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2.労働時間を管理する上で最も一般的なものは、タイムカードであると思います。
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3.では、そもそも、労働者からタイムカードを開示・提出するよう求められた場合、使用者は提出する義務を負うのでしょうか。結論として、使用者は提出する義務を負います。
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4.タイムカードは、裁判になった場面では、法律関係文書(民事訴訟法220条3号後段)に該当するとして、文書提出命令の対象となります。
この点、とある裁判例(大阪高等裁判所平成25年7月18日決定判例時報2224号52頁)で、相手方(使用者)が、タイムカードの提出により時間外手当の不払いが明らかになると、労働基準法に基づき懲役刑又は罰金刑に処せられる可能性があるとして、同法220条4号イ(自己負罪拒否特権)に該当するとして、提出を拒否できるはずだと主張したのに対し、裁判所は、「タイムカードは賃金台帳と同様に、労働者の基本的人権を保護することを主な目的として、法令により使用者に対して罰則の制裁の下に調製、保存および行政機関への提出を義務付けていると解されるところであって、労働者の権利保護のためには欠くことのできない重要な書類であり、しかも書類の記載内容は単なる客観的な出退勤時刻を記載してあるにすぎないものであるから、過重労働を理由とする安全配慮義務違反による労災損害賠償請求事件において、検証物提示命令が発令された場合には、民訴法220条4号イ(自己負罪拒否特権)の事由は、この提示命令を阻止しうる正当な理由には当たらない」と判示して使用者の主張を退けたものがあります。
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5.また、別の裁判例(大阪地方裁判所平成22年7月15日判決労働判例1014号35頁(医療法人大正会事件))では、「使用者は、労基法の規制を受ける労働契約の付随義務として、信義則上、労働者にタイムカード等の打刻を適正に行わせる義務を負っているだけでなく、労働者からタイムカード等の開示を求められた場合には、その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り開示すべき義務を負うと解すべきである。」と判示しています。
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6.このように、使用者は、労働者から求められた場合には、タイムカードを提出する義務があるのです。