「M&A」その1(弁護士 芝原明夫のコラム)
近時、M&Aに関する相談が増えました。中小企業の後継者難があり、銀行も新たな収益源として狙っています。
大きくとらえると、M&Aで、会社を売る側はわりと簡単です。会社資産と債務をありのままの状態で自己評価すればいいのです。会社を買う側の評価(他社評価)があまりに低ければ断ればいいだけです。自己評価と他社評価の差を交渉で埋められるなら、合意すれば成立です。
一方、買う側は大変です。会社の株式を取得して、会社そのものを買う場合、会社の不動産や設備などの物的なもの、従業員という人的なものを丸ごと引き継ぐわけだから、責任も出てくるので相当慎重に事をすすめなければならないのです。
最近は減りましたが、手形取引をしていたら、発行手形は精査できても、他社の約束手形に裏書保証していても、帳簿にはあらわれません。そう、「簿外債務」です。手形だけではなく、連帯保証をしている場合もありえるからです。又、取引上のトラブルで大きな訴訟になる可能性がある場合も考えられます。
疑えばきりがなくなるので、M&Aを成立させるかどうかは、結局は売る側の経営者、経営陣に対する信頼が置けるかどうかに関わってくるのです。まあ、これは新規取引にも言えることですが。
ところで、M&Aの仲介者として銀行が大いに動いています。貸付がある限り各企業の財務内容を知りうる立場にあるわけですから、この企業は買う力がある、この企業は後継者がいない、などの情報を持っているから当然です。ところが、いいかげんな場合があります。銀行の決算に合わせて契約を急がせたり、仲介者なのに契約書の中身と現状の吟味ができておらず、契約は成立したものの、簿外債務があったり、事業の引き継ぎでトラブってしまうことがあります。
1000万単位の仲介手数料をとっておきながら、契約が成立したらあとは知らんといって責任はとりません。売る方も買う方も、そこで働いている人も、取引先もすべてが不幸になることになります。
M&Aに関する限り、とくに、買う方は上記の問題点があるんだ、ということを経営者の方は知っておいてもらいたいなと思うこの頃です。